| 宮崎 | 「 |
拝読いたしました
」 |
| 井口 | 「 |
ありがとうございます。……で、いかがでしたか?
」 |
| 宮崎 | 「 |
感動しました
」 |
| 井口 | 「 |
本当ですか!!
」 |
| 宮崎 | 「 |
これ、すべて松尾部で連載してたものなんですか? 僕、あのサイト自体、覗いたことがなくて……
」 |
| 井口 | 「 |
いや、これ、実は出版のために原稿を書き下ろしたんですよ。2/3以上は松尾部の連載ではない書き下ろし原稿なんですね
」 |
| 宮崎 | 「 |
なるほど
」 |
| 井口 | 「 |
それで、本を読んで具体的にどういった感想をもったのかお聞ききしたいのですが
」 |
| 宮崎 | 「 |
まず、この本は「たぐいまれな感受性を授かってこの世に生を受けてしまった少年が、それゆえにたぐいまれなる経験をして育ち、たぐいまれな映像作家になった。そして、それまでのたぐいまれな歩みをこれまた、たぐいまれな文章力で実に理知的かつ勇敢に綴ったまれに見る名著」だと思いました。いろいろな奇跡がいっぱい詰まっている、まるで宝石箱のような素敵な本です
」 |
| 井口 | 「 |
うわー、ありがとうございます
」 |
| 宮崎 | 「 |
ただし、その宝石箱は便器の形をしているんです
」 |
| 井口 | 「 |
僕、宮崎さんにはもっと辛口トークをされるんじゃないかと思って覚悟してきたんですけど(笑)
」 |
| 宮崎 | 「 |
とんでもありません。今流通してる本の99%は不必要な本ですけど、この本は、数少ない、世の中に必要とされている本だと思います
」 |
| 井口 | 「 |
それは、どういう人々にとって必要なんですかね?(笑)
」 |
| 宮崎 | 「 |
まずは中学生や高校生。あのくらいの年齢の人たちの悩みのほとんどは、下半身にまつわるコンプレックスだと思われます。やれ「自分の性器は規格外なのではないか」「自分の性欲は異常なんじゃないか」「ひょっとして自分は変態なんじゃないか」。それだけで一日ヒマがつぶせるくらいです。そういう彼らに「決してあなたはひとりじゃない」というメッセージがこれほどストレートに伝わる本も珍しい
」 |
| 井口 | 「 |
それは嬉しいですね
」 |
| 宮崎 | 「 |
もちろん、ズバリ『あなたはひとりじゃない』みたいなタイトルの本もたくさんありますが、そういうまったく読む気がおこらないものじゃなくて、ちゃんと「笑い」と「うんこ」でコーティングしてあるから読みやすい。まあ、「うんこ」でコーティングされてるぶん、売れにくいのかもしれませんが
」 |
| 井口 | 「 |
(笑)
」 |
| 宮崎 | 「 |
でも、ベストセラーよりロングセラーをお狙いください。時代を超えて読み継がれるべき本なのですから。イエローモンキーというバンドの吉井ロビンソンというヘンな名前の男の人が、美輪明宏の『紫の履歴書』を読んで自殺をやめたんだか家出をやめたんだか家出を決心したんだか忘れましたが、とにかく何か救われたんですって。この本もこれからどんどん救いますよ、少年少女たちを
」 |
| 井口 | 「 |
本当、もう、ありがとうございます。この本で言いたかったのは、たまたま僕の趣味はこういうものだったけれど、普遍的に誰でも悩んでいるようなことに関して「みんなで一緒に考えようよ」ということですよね。まあ、そういう本にはなったかなと思うんです
」 |
| 宮崎 | 「 |
単行本が出たばかりで気が早いんですけど、ぜひ文庫化していただいて「新潮文庫の100冊」に入れてほしいですね。夏休みの課題図書に指定してもらって。タイトルも『見ちゃイヤ!イヤ!』ですとア
レなので。それっぽく変更して『茶色の履歴書』とか
」 |
| 井口 | 「 |
あ、それ最初に考えたタイトルです
」 |
| 宮崎 | 「 |
失礼いたしました(笑)。それから面白かったのが、「オナラを前にすると人は笑顔になる」「うんこを漏らすと人は泣く」など、排泄のことを書くと「人間とは何か?」という本質的なテーマにおのずと辿りついてしまう。よく直木賞の選評で決まって「だが、いかんせん人間が描けていない……」と口にする選考委員がいますけど、井口さんは高尚なことを書こうとしているわけではないのに、ものすごく深い「人間存在の不条理」を描いてしまう。そういう意味で、渡辺淳一もビックリですよ
」 |
| 井口 | 「 |
そうですね。基本的に僕が見たいのは“出るモノ”なんですけど、やっぱり大事なのは“人間”じゃないですか。「誰が出したモノか」というのが重要なんで、そこに至るまでの人間ドラマに一番興味があるんで、視点はやっぱり人間に向かってしまいますよね
」 |
| 宮崎 | 「 |
「ウンコと性」という、ある種「背徳のエロティシズム」っぽいテーマって、なんかフランス文学みたいでインテリも好みそうですよね。バタイユ? みたいな
」 |
| 井口 | 「 |
中高生の次は、インテリ?(笑)
」 |
| 宮崎 | 「 |
ええ、新聞の書評とかでも真正面からとりあげてもらえるんじゃないですか。鹿島茂とか中条省平とかああいう方たちが、この本を読んだら間違いなく論じてくれると思いますけどね
」 |
| 井口 | 「 |
宮崎さんは、そのお二人と知り合いじゃないんですか!?
」 |
| 宮崎 | 「 |
じゃないですねぇ、残念ながら(笑)」 |
| 井口 | 「 |
知り合いだったらぜひ届けてもらいたいんですけどね! ところで、宮崎さんは読んでいて共感した部分ってありますか?
」 |
| 宮崎 | 「 |
僕は排泄行為に“性の芽生え”を感じた記憶はほとんどないんですけど、井口さんが感銘をうけた団鬼六『花と蛇』シリーズは一冊、高校1年のときに読んでいるんですよ
」 |
| 井口 | 「 |
えっ、本当ですか!
」 |
| 宮崎 | 「 |
終戦直後に没落貴族の母娘が捕まって一緒に浣腸されちゃうやつ。「なんかカワイソーだなー」って思いました。あ、そうそう、僕が思ったのは、この本の登場人物は井口さんの経験もふくめて、言ってみれば“ある種の悲惨な体験”として語られている部分が多いけど、でも、どこか楽しそうなんですね。幸せそうなんです
」 |
| 井口 | 「 |
それはどういうところがですか?
」 |
| 宮崎 | 「 |
人が幸せになれない理由のひとつに「自分が何をしたいのかがわからない」ということがあると思います。「自分の欲望の正体」がなかなか掴めない。ニート、モラトリアム、自分探し、全部そうです。でも、この本の登場人物は「スカトロ」という少々世間の理解を得にくいジャンルと出会ってしまったことによって、逆に「自分の欲望の正体」をはっきりとつかむことが出来た。それが一種、輝かしい経験として読者には映るんですよ。僕もいまだに自分の欲望・願望がよくわかっていないところがありますし、そういう意味で井口さんは、すごく特権的に見えるし、羨ましい
」 |
| 井口 | 「 |
僕のイメージでは、宮崎さんなんかもそのへんは自覚的で。自分の欲望が何であるか、を早々と自覚しているんじゃないかなー
」 |
| 宮崎 | 「 |
いやいや、模索中です。旅の途中ですよ
」 |
| 井口 | 「 |
なんか、こんなマジメな話になるとは思いませんでした。最後に何か質問とかありますか?
」 |
| 宮崎 | 「 |
この本、大宅壮一ノンフィクション賞とか獲らないんですかね。講談社ノンフィクション賞でもいいですけど」 |
| 井口 | 「 |
(笑)獲ってほしいですけどね」 |
| 宮崎 | 「 |
浅草キッドの『お笑い男の星座2』が、大宅賞の候補作にノミネートされたそうです。この本だって十分いけるんじゃないかなと思うのですが
」 |
| 井口 | 「 |
まあ、どうなんでしょうかね。この本が賞でも獲って、僕自身のステータスになれば面白いですけど
」
|