| 井口 | 「 |
今日はわざわざありがとうございます。
」 |
| 枡野 | 「 |
いえいえ、こちらこそ、素晴らしい本と出会えて良かったです。本当、ここしばらく読んだ本の中で一番面白かったかもしれない。何か新しい、特別なものと出会えた気がします。
」 |
| 井口 | 「 |
本当ですか!?
」 |
| 枡野 | 「 |
僕自身はスカトロ趣味はまったくなくて、こないだの松尾部のイベントでも、正直、目を逸らしていたんですけど、文章にすると崇高なものばかりがキラキラと目に入って。これは正しい言葉の意味で“文学”だと思いましたよ。これを無理やり「小説です」と言って出版することもできたかもしれない。だから、今後「小説書きませんか?」という依頼が必ず井口さんのところに来ると思います。僕が今この場で予言します。
」 |
| 井口 | 「 |
ありがとうございます! いやあ、嬉しいです。正直、今日枡野さんにお会いするのはプレッシャーだったんです。枡野さんは文章のプロですし、“言葉”を常に重要視している方だと思ってましたので。枡野さんの「かなしーおもちゃ」(インフォバーン)、僕、すごく面白かったんですよ。
」 |
| 枡野 | 「 |
ありがとうございます。
」 |
| 井口 | 「 |
素人の方が書いた短歌を枡野さんが批評するじゃないですか。それがすごく刺激的で。枡野さんの指摘って、ひとつひとつ納得できるんですね。素人の書いた短歌って、一見よく出来ているんですけど、それに対する枡野さんの指摘が「鋭いなー」と思って。僕もちゃんと文章を書いたのが今回初めてだったので、お読みいただくのが心苦しいというか緊張するというか……。
」 |
| 枡野 | 「 |
いえいえ、たいへん素晴らしい本だと思いました。『恋の腹痛、見ちゃイヤ!イヤ!』ってタイトルも、一見何の本か分からないんだけれど内容を読むとぴったりだし、手に取りにくくない可愛い表紙だし。すごくとっつきやすくて、こういう世界から遠い人たちにも届くんじゃないかなと思いましたね。
」 |
| 井口 | 「 |
自分の中では正常なんだけど、世間から見たら異常なことってありますよね。クセとかもそうだと思うんですけど。そういうことについて、等身大のスカトロジーみたいな(笑)自分の目線でスカトロジーを描いてみようと思ったんですね。だから、とりたてて異常なことを書いてやろうとか思わずに、自分の中ではこれが日常の断片なんだというか。そういう視点では書けたかなと思いますね。
」 |
| 枡野 | 「 |
そうですよね。ヘンなものを見せてやろうという感じではなくて、心から井口さんがこう思っていることがよく伝わってきました。あと、妄想の数々が……みんな、井口さんみたいな趣味じゃなくても、違うベクトルで妄想することが多々あると思うんです。だから誰でも思い当たると思うんです。そういう意味で、この本には普遍性がありますよね。どんどん妄想の世界に入っていくシーンも素敵だったし、そこで結局は日常に還っていくラストも良かったし、本当、素晴らしい本でしたよ。だから、3月27日付の毎日新聞(連載“日曜日の名言”金紙&銀紙)で、この本の「もっと、みんなうんちを大切にしてくださーい!」ってセリフを取り上げたんですけど。このセリフは、売らんかなの姿勢でスカトロAVを撮る監督たちに向けた、井口さんの心の叫びですよね。
」 |
| 井口 | 「 |
そうですね。僕にとってうんちはアイドルなので。自分の好きなアイドルが杜撰に扱われているような気分になるんです。「いたずらにヘアヌードにはなってほしくない」というか。そのアイドルに思い入れのない人々が、過激な衣装を着せようとしているのを見ると、黙って見過ごせないというか。
」 |
| 枡野 | 「 |
そうですね。スカトロに限らず、なんでみんなエスカレートしていくんでしょうかね。趣味の問題って、個人によって許容できる幅があるはずなのに、いろんなものが過剰にエスカレートしていくじゃないですか。あれ、なんでなんでしょうかね? いくらなんでもそこまでしたら引くよ、という一線があるはずなのに。井口さんは、そのあたりを、すごく自分の趣味に忠実にやっていて。やっぱり作り手が本当に好きで作った作品は分かりますよね。
」 |
| 井口 | 「 |
ありがとうございます。自分でも、好きなことだけを書こうとどこかで思っていたんですね。無理して書くとウソになるというか。
」 |
| 枡野 | 「 |
それは伝わりましたよ。あと、これは銀紙(河井克夫)が対談の中で指摘していましたけど、スカトロ趣味の市民権を認めさせてやろうとか、そういうことは書かないじゃないですか。それがまたいいですね。
」 |
| 井口 | 「 |
書き手としては熱くならなくちゃいけないとは思うんですけど、やっぱり客観性は保っていたいというのが、どこかであったんですね。だから、いたずらに自分の主張(「うんこはすごいぞ!」)を押し付けるのも良くないなあというか。自分が変態であることを自慢するつもりはないというか。AV業界の中でも、楽しんでスカトロをやる人々を悪く言う人もいるんですよ。「おかしい」とか「キチガイ」だとか。でも、僕はそんな風には全然思えなくて。スカトロが好きな女の子だって普通の日常を送っているわけだし、普通に悩んだり、傷ついたりするんだって、そのことを普通に書くことが自分の中では重要だったんですけど。
」 |
| 枡野 | 「 |
やっぱり書いてる人が「どうだ、すごいだろう」って書いてるものは分かるから、そうじゃない姿勢で書くってのはなかなか出来ないことで。全然トーンが乱れずに淡々と、しかも興味のあることだけを書いている感じがしたから、そこがすごいと思いました。エッセイで興味のないことを作者が書くと、なぜか読者に伝わるんですよね。僕、赤瀬川原平さんが大好きなんですけど、彼が宮武外骨について書いているのを読むと、ある時点から飽きているのが分かるんですよ(笑)。そういう意味では稀有な、まあデビュー作だからってこともあるんでしょうけど、本当に良い仕事だと思いましたね。自分の中に確信を持っている人は、何をやっても優れた仕事をするのかなとか、いろいろと考えさせられました。あと、女優さんの名前や有名監督を匿名にしたりとか、迷惑をかけないように、配慮して書いているじゃないですか。全部実名にした方がサブカル的にはウケがいいんでしょうけど、そこを含めてたいへん“品”のいい本だと思いましたよ。
」 |
| 井口 | 「 |
そこは相当意識したんです。内容が内容なので、品のいいものにはしたいなと思いました。謙虚なうんこ好きでいたいという思いは強いので。
」 |
| 枡野 | 「 |
井口さんの品の良さがすごくよく分かる本でした。で、松尾スズキさんって、そういう“品性”に敏感な人じゃないですか。だから松尾さんは井口さんのことを支持するんだと思うんです。前書きで松尾さんは酷いこと書いてるけど(笑)それでも井口さんに愛情があるのが伝わってくるし。そういう意味では人生観の本、青春本、いろいろな読み方が出来る本ですね。この本で救われる人がいっぱいいる気がします。あと、内容面で僕が共感したのは、「男優さんが得意げに本番しているのを見るのが苦手だ」みたいなことを、井口さん、書いていたじゃないですか。
」 |
| 井口 | 「 |
ええ。
」 |
| 枡野 | 「 |
僕も本当にそう思っていて。そういうことを疑わない人が作る表現は嫌いですね。
」 |
| 井口 | 「 |
ありがとうございます。僕、勃ちの悪い男優さんって申し訳なさそうで大好きなんですよ(笑)。「ごめんなさい」とか言う人、大好きで。結局そういう人を起用することになってしまうんですけどね。
」 |
| 枡野 | 「 |
この本、いろいろ感動的なところがあったな。井口さんが自分の趣味嗜好を初めてカミングアウトして、そこで「じゃあおまえが撮ってみないか」とかって言われるシーンも感動的だったし。そういう意味では青春ものですよね。井口昇物語。
」 |
| 井口 | 「 |
ええ。これが自分なりの「青春の門」です(笑)。
」 |
| 枡野 | 「 |
僕は自分がするべきことをしている人が好きだから、その人がやるべきことに辿り着いた喜び、みたいなものが伝わってきて、読んでいて僕まで嬉しくなりましたね。為すべきことに辿り着けて本当によかったなって。
」 |
| 井口 | 「 |
いやー、本当、あの時は、うんこ好きで良かったなと思いました。
」 |
| 枡野 | 「 |
だから、僕は全然うんこは好きではないのに、これだけ共感できる、面白く読めるのはすごいことだと思う。普遍性があるってことだと思いますよ。
」 |
| 井口 | 「 |
ありがとうございます!
」 |
| 枡野 | 「 |
井口さんに比べたら、自分はまだまだそういうことをキチンと見詰めていないと反省しました。
」 |
| 井口 | 「 |
そんな、とんでもないです! 僕としては「スカトロやってるんだ」ってことが「バイク乗ってるんだ」くらいの感じで言える世の中になればいいなーと思って書いたんですけどね。枡野さん自身は、そういう特別な性癖ってあるんですか?
」 |
| 枡野 | 「 |
僕ねー、ホモッ気があるんですよ。
」 |
| 井口 | 「 |
ええっ! どういう男が好きなんですか?
」 |
| 枡野 | 「 |
顔で言うと、ラーメンズの小林賢太郎とか、毛皮族の原口くんとか。
」 |
| 井口 | 「 |
ええっ!!
」 |
| 枡野 | 「 |
だからこの前(以下、20分ぶんの談話を削除)というわけで今のところ片思いのプラトニックなんですけどねー。
」 |
| 井口 | 「 |
はあー。
」
|