松尾スズキの独特な言語回路とリズム! それを満喫できるのが本書です。「らあ!」とか「わに!」とか書かれた台本、俳優さんでなくても声に出して読んでみたくなります。
映画『恋の門』のシナリオに、DVD の副音声のように監督コメントをつけよう、と始まったこの本の企画。まずは、松尾さんを囲みスタッフの方々による質問大会を開きました。「なぜ恋乃はパン持って走ってるんですか?」「ゲロが好きなんですか?」など素朴な疑問から本質的なことまで。初めて明かされる演出意図に「そうだったんですか!」とプロデューサーさんが驚き「伝わってなかったのか……」と松尾さんががっくりされる一場面も。ともあれ脚本段階から、天候・時間の厳しい条件と闘いつつ撮影、編集を経て、物語がより面白くなるよう台詞も構成どんどん作り変えられる様子はそれだけでも相当ドラマチックでした。松尾作品の大きなうねりと、ぎっしり差し挟まれた「部分」の面白さはこうして生まれてきたのですね。脚注にはそれらをめいっぱい詰め込んだつもりなのですが、いかがでしょうか。
松尾さんには、キャストの方々の似顔絵も描いていただきました。「似てないよー」と自信なさげにおっしゃっていましたが、どの役までも心を配られたキャスティング、その愛が溢れていたと思います。酒井若菜さんの絵なんて2枚も描いてくださって……ちょっと妬けました。ラストの「恋について」のエッセイもぐっときます。映画もぜひご覧くださいね。DVDが出たおりには、この本を手にアフレコして楽しんでください、と松尾さん。ん? 何度でも使えるなら1365円は高くない? カバーをとった表紙のデザインが私はすごく好きなのですが、お家に帰って確認していただけると嬉しいです。押し売りみたいなコメントになってしまってごめんなさい。ちょっとでもこの映画プロジェクトに関われて楽しかったです。大ヒットをお祈り申し上げます。
2004.10
(マガジンハウス/黒瀬朋子)