この企画は、松尾さんの「あのさー、俺のまわりにいる『生きにくそうな人』の話を聞いてみたいんだけど」という一言でスタートしました。若ハゲ、つらいバイト、痔持ちといった、人に話したところでたいして同情もされない日の当たらないストレスで、でも本人にとってはテロよりも戦争よりも憂鬱。そんな世界の住人に話を聞きたいと。こんな地味なテーマで連載なんて大丈夫だろうか、と思わないでもありませんでしたが、回を重ねるごとに地味どころかぐいぐい過激に面白かった。毎回どこからともなく『生きにくそうな人』を見つけてくる松尾さんのセンサーも凄かった。松尾さんは実に優れたインタビュアーでした。何気ない細部の質問から核心を引き出したり、大きな流れを作っておいて軽く引き上げたり。それは、松尾さんの稽古場での役者さんに対する演出の仕方ととても似ていて、本人も気がついていないような癖や動きをひょいと引き出してキャラクターを作ったり、そこからテンポが生まれたり。あらためて松尾さんの凄さを味わえる1冊になりました。単行本初版時には精神病院の先生に取材し「気○がいの頭の中ってどうなってんの?」などのダイレクトな質問いっぱいの画期的な章があったのですが、文藝春秋の文庫化の際に思い切り全面削除されてしまいました。初版を探して是非読んで下さい。
(担当/木邑直子)